「接客研修を入れ「忙しいから接客が雑になる」
本当にそうでしょうか
コンサルティングで飲食店の現場に入ったとき、私はよくこう質問します。
「接客が雑になっていますが、原因は何ですか?」
返ってくる答えは、ほぼ決まっています。
「忙しくて余裕がなく、すみません」 「人が足りていないので、こうなってしまいがちで……」

そこで、私はもう一段だけ踏み込みます。
「では、忙しくないときはできますか?」 「人が足りていれば、できますか?」
すると、たいていはこう返ってきます。
「はい、できると思いますが……」
——語尾が濁ります。この濁りこそが、問題の在りかです。
忙しさと人手不足が、丁寧な接客という最も大切な指導を後回しにする理由になってしまっている。原因の分析ではなく、原因の代役になっているのです。
研修を導入する立場の方には、まずここを共有していただきたいと思っています。
接客に要する時間は、そもそも削減できない
冷静に考えてみてください。
「いらっしゃいませ」を省くわけにはいきません。オーダーを取る時間も、商品を提供する時間も、短縮には限界があります。接客に必要な時間は、忙しさを理由に削れるものではない。
では、忙しいときに何が変わっているのか。減っているのは時間ではなく、落ち着きです。
お客さまが立て込むと「急がなきゃ」という心理が働きます。これは店側の心理です。ところが、お客さまの心理はまったく違います。

お客さまは「急いでやって欲しい」とは思っていません。「丁寧にやって欲しい」と思っています。
ここがすれ違った瞬間、接客が乱れます。一度にすべてのお客さまをこなそうとして、目の前の一人がおろそかになる。丁寧さ、親切さが欠けている店は、ほとんどがこの構造に陥っています。
伸びている店は、動きが速い店ではありません
私は大手ファーストフードレストランチェーンで33年間、店長、スーパーバイザー、地区統括マネージャー、本部営業推進部長を歴任し、店舗経営の指導に携わってきました。
その経験を通してお伝えしたいのは、忙しさと接客品質のあいだに因果関係はないということです。
ピークタイムは、どの店にも等しく訪れます。同じ商圏、同じ規模、同程度の人員配置でも、忙しい時間帯の接客が崩れる店と、崩れない店に分かれます。条件が同じである以上、差を生んでいるのは忙しさではありません。
差を生んでいるのは、育て方です。
現場が変わる3つのポイント
私が飲食店の接客研修でお伝えしている改善策は、たった3つです。
① 一人ひとりのお客さまを大切に
「全体を回す」意識から、「今この方に向き合う」意識へ切り替えること。並んでお待たせしているお客さまへの配慮は、人員配置や案内の仕方など、別の形で手を打つべき課題です。接客の質を落として解決する問題ではありません。
② 慌てない、急がない
焦りは伝染します。スタッフ同士の早口な指示、駆け足の動線、視線が合わない受け答え。お客さまは料理の前に、まず店の空気を味わっています。
③ 頑張りすぎない
3つの中で、これが最も抵抗を受けます。「頑張るな、とは言えません」と現場から言われることもあります。しかし、頑張りすぎている人ほど、視野が目の前の作業に狭まっていきます。
この3つに取り組むには、実は勇気が要ります。忙しい最中に落ち着くというのは、現場の本能に逆らう行為だからです。だからこそ、個人の心がけではなく、店の方針として言い切る必要があります。
教育担当者の方へ——研修で変えるのは「気持ち」ではなく「判断」
「慌てない、急がない、頑張りすぎないなんて、現実にできるのか」
そう思われる方が大半です。できます。ただし、精神論として伝えた研修は、翌日に消えます。
必要なのは、忙しいときに何を優先し、何を後回しにするかという判断基準を、現場に共通言語として持たせることです。誰が判断してもブレない基準があれば、スタッフは焦りません。焦らなければ、接客は自然と丁寧になります。

試しに、うまくいっている店を客として観察してみてください。必ず共通した印象を受けます。
- 落ち着いた雰囲気
- 明るさ
- 笑顔
- 声のかけやすさ
これらは偶然の産物ではありません。育て方の結果です。
現場の課題を、そのまま研修プログラムに
私ども株式会社おもてなし経営研究所では、研修に先立って現場で実際に起きている事例をお伺いし、それをそのままプログラムに反映しています。汎用のカリキュラムをそのまま持ち込むことはしません。
「接客が雑になっている自覚はあるが、忙しさ以外の原因が説明できない」
「現場に何度言っても、丁寧さが定着しない」
そうお感じでしたら、まずは現状をお聞かせください。
日本全国の飲食業をはじめ、サービス業の接客研修・接遇研修を承っております。
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執筆・監修
株式会社おもてなし経営研究所 代表 伊東 久
飲食・ホテルサービス業の現場に40年以上携わり、店長職から本部マネジメントまでを歴任。
長年の現場経験に基づく「一人ひとりが自走し、成長する仕組みづくり」を強みとする。現在はそのノウハウを活かし、飲食・宿泊業をはじめ、商業施設や官公庁、金融業など幅広い業種で人財育成のアドバイザーとして活動中。

